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美との対話
皆さま、ごきげんよう。
秋も深まり、心静かに過ごせる良い季節となりました。
仕事が一段落した夜、音楽に耳を傾けることがあります。先日聴いたのは、ワーグナー作曲「エルザの大聖堂への行進」。歌劇『ローエングリン』の中の一曲で、ひときわ美しく、荘厳な調べに満ちています。その中で私は、ある鐘の音に強く惹きつけられました。
曲の中では鐘が数回鳴りますが、印象に残ったのは、そのうちの一つ。高らかに鳴り響くというより、清冽で澄み切った音でした。他の音色に埋もれることなく、疲れた私の心に真っ直ぐに届き、「ああ、美しい」としみじみ感じたのです。
なぜ私はその音に惹かれたのでしょう。それは、情報や雑念にあふれる日常にあって、本当に純粋で美しいものを欲していたからかもしれません。
私たちは、毎日せわしない時を過ごしています。そうした日々に、絵画や音楽に触れると、心が洗われるような気持ちになるのです。作品と向き合ったとき、「これは何を表しているのだろう」「この色彩は私に何を語りかけているのだろう」と、自分を無にして思索するからかもしれません。作品を生み出し、美を極めようと、真摯に取り組んだ作者の姿を想像して、深い敬意を抱くからかもしれません。
先日訪れた美術館でも、多くの絵画を前に、心の澱のようなものが消え、新たな活力が湧くのを感じました。
美が、日々の暮らしに不可欠なものではないとしても、「美との対話」のひとときが、私たちの心を潤し、生きる力を与えてくれるように思います。
大妻の生徒たちにも、少し背伸びをして、自分なりの美を探してほしいと思っています。芸術だけでなく、自然や人の営みの中にも、美は息づいています。美と出会い、美に心を寄せる静かな時間が、内面を整え、豊かな感受性を育んでくれると、私は信じています。
明日も、皆さまにとって素晴らしい一日となりますように。
ごきげんよう。
