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素朴な疑問から
皆さま、ごきげんよう。
日々、校長室を様々な生徒が訪れてくれます。先日来てくれたのは好奇心旺盛な高校生。悪戯っぽい目で、私にこんな質問を投げかけました。
「先生、『辮髪(べんぱつ)』ってありますよね。あれ、髪が薄かったり、禿げたりした人はどうしていたんですか?」(辮髪は、清の時代に服従の証として強制された、頭頂部の髪だけを残して長く編み込む男性の髪型です)
「え?! 考えたこともなかったな。清に反発した人々が後々長髪族と呼ばれたりするから、前の方だけでも剃っていれば証になったのでは?」
「でも『頭を留めんとすれば髪を留めず』とも言いますよね」
「うーむ。確かに下手すれば命に係わる大問題だな」
この話から、話題は日本のちょんまげや、女性の足を小さく保つ中国の風習『纏足(てんそく)』へと広がりました。
「成人女性が小さな足でいるために、子どもの頃から足の指を内側に折り込んで固定するあれだね」
「うー痛そう。何でそんなことを?」
「いろいろな説があるが、高い身分の家では、纏足であることが女子の価値につながったといわれているね。美と女性らしさの象徴というわけだ。小さな女の子が夜な夜な痛みに泣いたなんて話を聞いたことがあるよ」
「は? 女子の価値って何ですか! 何で小さな足が美なんですか」
生徒の純粋な怒りにも似た問いかけに、私は数年前に卒業生が教えてくれた話を思い出しました。彼女の曾祖母様が「三寸金蓮」と呼ばれる極小の纏足をされていたという話です。そんなに昔の話ではないのです。
「他国の文化は尊重すべきなのでしょうが、理解しがたいです」
生徒の素朴な疑問は、歴史上の風俗に留まりませんでした。話題は、今もアフリカの一部の国に残る、女の子の身体の一部を切除する風習へと移りました。非人道的で不衛生な環境で行われ、命を落とす子もいるという現実の課題です。
「何ですかそれは! なぜ女の子ばかり」
「今私たちは遠い世界の他人事として話しているけれど、もしあなたが当事者だったら、あるいは当事者の母親だったらどうだろう。周囲が皆『当然の行為』と信じている中で、嫌だとか、うちの子にはやらせん!とか言えるだろうか」
文化の尊重と人権の侵害。この2つの価値観が激しくぶつかり合う問題です。私たちは、可哀そうかどうかという感情論から離れてこの問題と向き合う必要があります。
話が思わぬ方向に進んだ頃、残念ながらチャイムが鳴り、生徒たちは教室へ帰っていきました。素朴な疑問は、遠い歴史から現代社会、そして人権という普遍的なテーマへとつながっていったのです。
「この続きは、また話そう!」
*生徒が後日調べて教えてくれましたが、例えばソマリアの15~19歳の女の子の98%が、切除を経験しているとのこと。数字の重みが、この問題の深刻さを物語っています。
明日も皆さまにとって素晴らしい一日となりますように。
ごきげんよう。